「農す神戸」
里山+都市。神戸市北区のちょうどいい暮らし

農す神戸 no.5

都市部に近いから実現できた 私らしい農業の形

農家 / 森本 聖子さん / 36歳 / 淡河町

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30代前半までOLとして働いていたが、自分で決めてできる仕事の充実感を農業に見出し農家に転身。農村部と都市部が近い神戸の特徴を活かし、自分のつくった野菜を街のレストランやホテルなどに直接卸している。
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ベランダ園芸が高じて農家に

 

森本さんは、かつては旅行代理店に勤める会社員だった。けれど農家に転身してもう3年目になる。この仕事を気に入っているのは、すべてを自分の判断で決めて行えるのと、姿かたちのあるものを売ってお金をもらっているという手応えがあるからだ。種から育てて収穫し、自分で値をつけ、それが人の手に売れていくという充実感。つくった野菜たちをドキドキしながら初出荷し、それらが直売所で完売した時の嬉しかった体験は今も忘れられないという。
「もともと農業に強い関心があったわけではないんです。結婚してから住んでいた兵庫区のマンションのベランダでパセリなどの野菜を育て始めたことがきっかけでした。そこからちょっとずつのめりこんで貸し農園を次に借りました」。しかし程なく、貸し農園でなく自分で農地を借りることはできないのかな?と疑問が。ネットで調べると、農地を借りるには資格が要り、そのためには専門の学校で学ぶか農家に弟子入りする必要があると知った。
一人でこっそりと「楽農学校」の就農コース(兵庫県楽農生活センターが主宰する、農業を本格的に学びたい人のためのコース)の見学に行った。週7日、朝から晩まで、365日。本気で農家になる人のためのコース。「その時点でもまだ農家になるという自覚があったわけではなくて。けれども、そこで学べる内容が本格的であることにワクワクして」、気がつけば会社を辞めて通う決意を固めていた。
そして2年の研修期間を経て、現在は知り合いのつてで借りた北区の農地で作物を育て、出荷・販売をする忙しい日々を送っている。

 
 

都心のホテルやレストランに直接野菜を卸す

 

「自分でつくった野菜をレストランに直接卸したい」。農家になることを志すようになった当初からそうした願望を持っていたという森本さん。

楽農学校に通っていた当初、先生や同期生から「そんなの売れへん」と言われながらも変わった野菜ばかりつくっていた。今も雑誌のフレンチ特集などを見ていて、使われている野菜で気になったものがあればすぐに育ててみる。「過去にレストランで働いたことがあって。そうしたお店では、特徴のある珍しい野菜は少量であってもきっと需要はあると思ったんです」。

大きな作付面積で同じ作物をたくさん作る農家は、大量出荷が可能なため安定して供給することができる。それと同じやり方は自分のような小規模農家はできないし、お客さん一人ひとりにとって価値のある野菜を、大切に育てて届けたい。そうした気持ちもあって少量多品種、また珍しい野菜に特化するという独自路線を歩むようになった森本さん。レストランをはじめとする飲食店は、素材から差別化を図ったり、実験的な試みをする意欲にことかかない。そして何より北区の農村は都市と近いのだ。だからこそ、潜在的需要は高いはずと考えた。街中で行われるマルシェへの参加を通じてレストランのシェフなどと徐々に知り合うことができるようになり、今ではホテルや飲食店に定期的に直接野菜を卸している。

 

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1. 神戸・元町にある食のセレクトショップ。ここでも森本さんの野菜が販売されている。 2. 神戸市内のレストランに直接野菜を販売。  3. ホテルのシェフと。森本さんの作る珍しい野菜に料理人も腕が鳴る。 4. 配達のため北区の畑から神戸の中心地に。来るのにかかる時間は30分くらい。

 

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真ん中のかご、白い野菜は「たまごナス」。普段見たことのない変わった野菜が多く、お客さんたちも思わず尋ねてしまう。「それ、何ですか?」

 
 

神戸だからこそできる農家のかたち

 

ご主人は会社員としてポートアイランドにある職場まで毎日車で通勤している。休日には聖子さんの収穫や販売を手伝っている。「車なら45分程度で行けるので普通に通勤圏という感覚です。街中に住んで電車通勤をしていても、乗り換えをしているとそれくらいかかりますしね。北区はクーラーいらずで過ごしやすいし、作物はあるから食べるのに困ることはありません(笑)。今の生活の満足度は高いですよ」。

聖子さん自身は、北区を選んだことを今、どう考えているのだろうか。「私のような農家のかたちというのは、おそらく神戸の中心に近い場所でないと成立しないと思うのでちょうど良い距離感です。最近ではファーマーズマーケットなども始まって、より都市部の食の事業者さんや消費者の方々との日常的なお付き合いが増えていますが、そうした中でコミュニケーションをしながら農作物を売るのが仕事の楽しさにもつながっています。それに、毎日自然のなかで汗水流して働きつつ、やっぱり時々は街に買い物に行きたいです(笑)」。

 

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美しい山あいの風景の中に佇む森本さんのお宅。

 

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インタビュー風景。ご自宅にて、ご主人と愛犬とともに。

 
 

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書籍版『農す神戸』では、他にもこんな記事をお読みいただけます。
● 農家 芝卓哉さん
「自分と同じようにアトピーで悩む人に 安心で安全な野菜を届けたい」
● 農家 東馬場怜司さん
「就職できる場所があれば 農家になりたい人も増えると思うんです」
● 農家 藤本耕司さん
「自分の経験を伝えることで 若手の農家を育てていけたら」
● 農家・音楽家 お花畑headsさん
「いつも、土がそばにある 生きてるってことを実感できる」
● 酪農家 弓削忠生さん
「都市近郊農業でめざすのは 自然とエネルギーが循環する未来」 他

森本さんのこれまで

 

神戸市中央区に生まれる
 ↓
旅行会社に勤める
 ↓
夫婦で住んでいた
マンションのベランダで
家庭菜園を始める
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市民農園を借りる
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楽農生活センター・就農コース
に通い、会社を辞める
 ↓
北区に農地を借り、
通い農業を行う
 ↓
農地から数分のところに
空き家を借り、
北区淡河町に住み始める