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書籍版「農す神戸」、好評発売中!

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Community Travel Guideシリーズ第六弾
 
テーマは、「観光」から「移住」へ。

 
 

2011年の発刊以来4年間、6地域を舞台に制作してきたCommunity Travel Guide。本書の主目的は地域の観光振興です。しかし、地域によっては、観光目的以外でも活用されているケースが増えています。海士人が地域外からの移住者誘致のツールとして活用されたり、福井人づくりで知り合った仲間から新たなまちづくりのプロジェクトが続々生まれたり、大野人が市内の全中学校の図書館でふるさと教育の教材として活用されたり……地域で暮らす人に光をあてることは、地域を元気にする様々な役割を果たすのです。

 

第六弾『農す神戸』のテーマは移住です。神戸市北区で里山と都市を両方楽しむ新しい暮らしを始めている人を紹介しています。これからもCommunity Travel Guideシリーズは、「人に光をあてることで、地域を元気にする」、このコンセプトを大切にしながら、新しい領域にチャレンジしていきます。

 

▶ 書籍版『農す神戸』、ご購入はこちら

バイリンガルな稲刈り体験 〜インターナショナル・ネイチャースクール・プログラム 〜

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異文化交流しながら環境について学んでほしいと、NPO法人「 Peace & Nature 」では北区で継続的に農体験のイベントを行っています。棚田の景色が広がる大沢町で、約70名の親子が稲刈りに挑戦!

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環境問題や食の安全について取り組むNPO法人「 Peace & Nature 」では、休耕田を生かし食や環境について学べるワークショップを定期的に開催している。インターナショナル・ネイチャースクール・プログラムと言って、日本人と外国人が一緒に、異文化交流しながら自然体験ができるのが特徴だ。
この日もまず代表のバハラム・イナンルさんによる英語と日本語を織り交ぜた挨拶からスタート。そして参加した親子はスタッフのサポートを受けながら稲刈りを楽しんだ。神戸市内からだけでなく、西宮市や芦屋市、遠くは京都などからも来ているとのこと。子どもは多くが小学校低学年。始めのうちは、スタッフの外国人留学生に英語で話しかけられ戸惑っていたが、ほどなく打ち解けてやりとりを楽しんでいた。外国人のスタッフに手を添えてもらいながら、日本人の子どもが鎌を持って稲を刈っていく様子が印象的だった。

 

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子どもにとっては、言葉の壁もなんのその!

 
 

稲が刈り取られ田んぼの土が見えてくると、今度は泥の中を走り回ったりカエルを捕まえにいったりこの環境を存分に楽しんでいた。参加したお母さんは「泥んこになるなんてマンションでの生活ではさせてあげられないので、ここに来ると自由にさせてやるんです。春の田植え体験にも来たのですが、田んぼにダイブしちゃって。お着替えが大変でした(笑)」聞けば、もう何度も参加しているとのことだった。

 

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農家さんから稲束(いなづか)の結び方を教わる。

 
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鎌を使うのも生まれて初めて。

 
 

「家族で楽しみながら参加することで、親子の間のコミュニケーションを深めるきっかけにもなれば」とバハラムさん。Peace&Nature では、田植えや、玉ねぎの苗植え、そして稲刈りと、年間を通してさまざまな農体験プログラムを行っている。

 

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虫取りに夢中になる子どもたち。

 
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また次も来たい!

 
 

( 2015 年 9 月 26 日に取材 )

 

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書籍版『農す神戸』では、他にもこんな体験レポートをお読みいただけます。
● 都会の人が農家を訪ねる FARM VISIT
農家のもとを消費者が訪れ、作物がどんな風につくられているのかを直に見て学ばせてもらう FARM VISIT。神戸市内の企業に勤める男女が、北区の有機農家・芝 卓哉さんの畑を訪ねました。
● 家族で秋の里山体験 〜あいな里山まつり〜
山が黄色くなり始めた10 月最後の日曜日、北区山田町にある、あいな里山公園で行われた「あいな里山まつり」。1年前、東京から神戸に移住してきた安田さん一家が体験してきました!
● みんなでのこす 1300 年の歴史
有間神社が西宮から有野町へ場所を移してから、今年(2016年)で1300年。その長い歴史を祝うお祭りに行ってきました!
● 茅葺き体験ワークショップ
神戸市中央区で働く30代のご夫婦に、淡河かやぶき屋根保存会「くさかんむり」の活動を実際に体験してもらいました!

都市部に近いから実現できた 私らしい農業の形

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30代前半までOLとして働いていたが、自分で決めてできる仕事の充実感を農業に見出し農家に転身。農村部と都市部が近い神戸の特徴を活かし、自分のつくった野菜を街のレストランやホテルなどに直接卸している。
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ベランダ園芸が高じて農家に

 

森本さんは、かつては旅行代理店に勤める会社員だった。けれど農家に転身してもう3年目になる。この仕事を気に入っているのは、すべてを自分の判断で決めて行えるのと、姿かたちのあるものを売ってお金をもらっているという手応えがあるからだ。種から育てて収穫し、自分で値をつけ、それが人の手に売れていくという充実感。つくった野菜たちをドキドキしながら初出荷し、それらが直売所で完売した時の嬉しかった体験は今も忘れられないという。
「もともと農業に強い関心があったわけではないんです。結婚してから住んでいた兵庫区のマンションのベランダでパセリなどの野菜を育て始めたことがきっかけでした。そこからちょっとずつのめりこんで貸し農園を次に借りました」。しかし程なく、貸し農園でなく自分で農地を借りることはできないのかな?と疑問が。ネットで調べると、農地を借りるには資格が要り、そのためには専門の学校で学ぶか農家に弟子入りする必要があると知った。
一人でこっそりと「楽農学校」の就農コース(兵庫県楽農生活センターが主宰する、農業を本格的に学びたい人のためのコース)の見学に行った。週7日、朝から晩まで、365日。本気で農家になる人のためのコース。「その時点でもまだ農家になるという自覚があったわけではなくて。けれども、そこで学べる内容が本格的であることにワクワクして」、気がつけば会社を辞めて通う決意を固めていた。
そして2年の研修期間を経て、現在は知り合いのつてで借りた北区の農地で作物を育て、出荷・販売をする忙しい日々を送っている。

 
 

都心のホテルやレストランに直接野菜を卸す

 

「自分でつくった野菜をレストランに直接卸したい」。農家になることを志すようになった当初からそうした願望を持っていたという森本さん。

楽農学校に通っていた当初、先生や同期生から「そんなの売れへん」と言われながらも変わった野菜ばかりつくっていた。今も雑誌のフレンチ特集などを見ていて、使われている野菜で気になったものがあればすぐに育ててみる。「過去にレストランで働いたことがあって。そうしたお店では、特徴のある珍しい野菜は少量であってもきっと需要はあると思ったんです」。

大きな作付面積で同じ作物をたくさん作る農家は、大量出荷が可能なため安定して供給することができる。それと同じやり方は自分のような小規模農家はできないし、お客さん一人ひとりにとって価値のある野菜を、大切に育てて届けたい。そうした気持ちもあって少量多品種、また珍しい野菜に特化するという独自路線を歩むようになった森本さん。レストランをはじめとする飲食店は、素材から差別化を図ったり、実験的な試みをする意欲にことかかない。そして何より北区の農村は都市と近いのだ。だからこそ、潜在的需要は高いはずと考えた。街中で行われるマルシェへの参加を通じてレストランのシェフなどと徐々に知り合うことができるようになり、今ではホテルや飲食店に定期的に直接野菜を卸している。

 

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1. 神戸・元町にある食のセレクトショップ。ここでも森本さんの野菜が販売されている。 2. 神戸市内のレストランに直接野菜を販売。  3. ホテルのシェフと。森本さんの作る珍しい野菜に料理人も腕が鳴る。 4. 配達のため北区の畑から神戸の中心地に。来るのにかかる時間は30分くらい。

 

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真ん中のかご、白い野菜は「たまごナス」。普段見たことのない変わった野菜が多く、お客さんたちも思わず尋ねてしまう。「それ、何ですか?」

 
 

神戸だからこそできる農家のかたち

 

ご主人は会社員としてポートアイランドにある職場まで毎日車で通勤している。休日には聖子さんの収穫や販売を手伝っている。「車なら45分程度で行けるので普通に通勤圏という感覚です。街中に住んで電車通勤をしていても、乗り換えをしているとそれくらいかかりますしね。北区はクーラーいらずで過ごしやすいし、作物はあるから食べるのに困ることはありません(笑)。今の生活の満足度は高いですよ」。

聖子さん自身は、北区を選んだことを今、どう考えているのだろうか。「私のような農家のかたちというのは、おそらく神戸の中心に近い場所でないと成立しないと思うのでちょうど良い距離感です。最近ではファーマーズマーケットなども始まって、より都市部の食の事業者さんや消費者の方々との日常的なお付き合いが増えていますが、そうした中でコミュニケーションをしながら農作物を売るのが仕事の楽しさにもつながっています。それに、毎日自然のなかで汗水流して働きつつ、やっぱり時々は街に買い物に行きたいです(笑)」。

 

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美しい山あいの風景の中に佇む森本さんのお宅。

 

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インタビュー風景。ご自宅にて、ご主人と愛犬とともに。

 
 

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書籍版『農す神戸』では、他にもこんな記事をお読みいただけます。
● 農家 芝卓哉さん
「自分と同じようにアトピーで悩む人に 安心で安全な野菜を届けたい」
● 農家 東馬場怜司さん
「就職できる場所があれば 農家になりたい人も増えると思うんです」
● 農家 藤本耕司さん
「自分の経験を伝えることで 若手の農家を育てていけたら」
● 農家・音楽家 お花畑headsさん
「いつも、土がそばにある 生きてるってことを実感できる」
● 酪農家 弓削忠生さん
「都市近郊農業でめざすのは 自然とエネルギーが循環する未来」 他

仕事も家事も育児も、みんな超多忙 だけど、日常が自然と共にある

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平日はまちで働き、休日は農作業やDIYなど…メリハリの利いた暮らしを体現している大橋さん一家。自然が身近にありながら、神戸の中心部まで車で約15分で行けるアクセスの良さが、共働きの日々を支えている。
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住まいは、出会い。今しかできないことを

 

以前は、神戸市東灘区の山の手に住んでいた。「定年を迎えたら田舎暮らしを」と思い描いていたところ、「若くて元気なうちに、やっとかないといけないことがあるの」と人生の先輩から背中を押され、いま実現しなければと考えるように。「娘が小学校へ上がる前に」と移住先を探し始め、「ログハウスに住んでみたかった」という祐一さんは、フィンランド製のログハウスの建築を決意。「山田町にある青葉台は昭和50年代に開かれた住宅地で、価格が手ごろでした。家って、出会いですよね」と語る祐一さん。12月に着工して翌年3月に完成、引っ越したのは小学校の入学式の1週間前だった。

 
 

手間ひまかけて、家を育て、慈しむ

 

六甲山の南側より3~5℃は気温が低い北区にあって、「薪ストーブを使いたいから、寒い方がいい」と笑う一家のお気に入りはリビングルーム。ログハウスは壁が厚く、一度あたたまるとずっとあたたかいのが特徴で、気が付くと家族全員がリビングに集結している。
住み始めて3年がすぎた頃、足場だけ組んでもらって、自力で外壁を塗装しようと決めた祐一さん。妻の華子さんは娘さんと共に壁の低い部分をペイント、約2ヵ月かけて家族で成し遂げた。無垢材の家は一般的な住宅に比べて、どうしても手間ひまがかかる。塗装だけでも数年ごとに行う必要があるものの、DIYを趣味とする祐一さんにとっては面倒も楽しみのひとつ。みんなで取り組むことにより、一家の成長の軌跡が少しずつ塗り重ねられていくことにもなるように見える。

 
 

目の回るような日常を、豊かな緑が包む

 

平日は大忙しの大橋夫妻。祐一さんの通勤時間は、バスを乗り継いで約45分。デスクワークに追われ、オフィスに閉じこもることも多い。華子さんの通勤時間は約30分。製薬会社で臨床開発を担当、週の半分はあちこちの病院へ出張しており、新幹線の新神戸駅まで車で10分で行けるのは非常に便利だ。
そんな、てんてこ舞いの日々を支えるのが、自然の存在。「週末は仕事をわすれて、スイッチをオフに。庭の植物、周囲の環境すべてが四季の移ろいを感じさせてくれます」「裏山は、多種多様な広葉樹や松がしげる森。六甲山系でよく見られるコバノミツバツツジや椿が咲く春先は、特に美しいですよ」と魅力を語る夫妻。近所の川ではホタルが舞う他、キジやタヌキがごく普通に生息している。

 
 

150829大橋さんファミリー0164自宅_ログハウス

住宅街に映える赤、ログハウスは大橋家の夢のシンボル。

 
150829大橋さんファミリー0211_ベジタブルガーデニング収穫

この日収穫した野菜、今年は巨峰が見事に実った。

 
 

黒豆が育つシーズンは、家族で農作業

 

夏休み最後の土曜日、午前8時。丹波黒豆大豆の畑で草取りが始まった。淡河町にある貸し農園へ大橋さん一家が通い始めたのは4年前。「ここのオーナー制度を利用していた会社の同僚から、参加してみない?と誘われて。家庭菜園に加え、日常的に植物に触れていたいという願いが叶いました」とほほえむ華子さん。「農家の方が色々教えてくださる上、肥料や水やりをしたりと世話をしてくださるのでありがたいです」と言葉を続ける。
今では1区画40株を2区画分、借りている。咲き始めた可憐な花に触れないよう、夫妻は慎重に作業を進行。生き物が大好きな娘さんは前日の雨でぬかるんだ畑を裸足で駆けめぐり、カエルや虫をつかまえるたびに、ほらっ、と披露してくれた。

 

150829大橋さんファミリー0049貸し農園_黒大豆畑で作業

貸し農園、丹波黒大豆の畑で草を引く。

 
150829大橋さんファミリー0002貸し農園_黒大豆畑へ向かう

黒豆の成長を楽しみに、貸し農園に向かう道。

 
150829大橋さんファミリー0251自宅_ガレージアトリエ

ガレージ工房での大工仕事、祐一さんの至福のひととき。

 
 

尽きない夢を、どんどん叶えていく舞台

 

庭には、冬を4回越せる薪を蓄えた小屋がある。薪を割ったり、小屋やベンチを作るなど、DIYを楽しむ祐一さんは「男のロマン」であるガレージ工房で過ごすのが楽しみ。華子さんが丹精込めて育てている菜園では、20種類以上の季節の野菜やハーブが風に揺れる。
祐一さんの次なる夢は、キャンピングカーで全国の名所をめぐること。華子さんは野菜の自給自足が目標で「収穫した野菜を外で洗えるよう、炊事場を作ってほしい」と言い、裏庭にある小屋で遊びたい娘さんは、階段の設置を切望中。大橋さん一家のすこやかな野望はこれからも、きっと尽きることがない。

 
 

 

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書籍版『農す神戸』では、他にもこんな記事をお読みいただけます。
 ● ベーグルショップ 村上敦隆さん
 「パンが焼けて、家族と一緒に過ごせる 私たちにとってこれ以上ない幸せなんです」
 ● 建築士 村上隆行さん
 「小学校と地域の支えがあるから 子どもの個性を生かした子育てができる」 他