hakuhodoid のすべての投稿

可憐でたくましい乙女3人組

冬の間、越前海岸の斜面一帯は水仙の花で埋め尽くされる。毎年この景観をアピールする大役を担うのが、水仙娘だ。今年は中橋暁子さん(左)、小川知恵さん(中央)、小林愛さん(右)の3人が選ばれた。かすりの着物姿がなんとも初々しい。厳しい冬の海風に向かって咲く越前水仙。この花の発祥には、こんな言い伝えがあるという。かつて美しい娘が自分をめぐって争う兄弟を嘆き海に身を投げた。この娘が花に姿を変えたのが越前水仙の始まりなのだとか。この伝説さながらに愛らしくもたくましい乙女3人組。彼女たちに会いに、越前に足を運んでみていはいかがだろう。

山奥の地元からロングライフ デザインを提案する

遠く山の裾野まで一面に広がる田畑。一見ここ?と思う場所に、モダンな建物のインテリア雑貨店「GENOME(ゲノム)」はある。場所や時代に左右されないロングライフデザインのモノを提案する場として、「このなんもない地元」をあえて選んだという藤原ヨシオさん。17年勤めた役場を辞めてこの店をオープン。不安もあったがデザイナーなど感度の高い人々の間で人気となり、先日開催したフリーマーケットは常時50台の車が並ぶほど盛況だった。「この店が地元の若い人たちの自慢になったら嬉しい」。訥々(とつとつ)と語る表情に、照れと誇らしさが見え隠れした。

一見やんちゃでも、滑りはプロ級

山間にボードを滑る音がこだまする。テニスコートを改造して造った「桜橋スケートパーク」を運営するスケボー集団KON.だ。代表の上杉さん(1段目右から3番目)は全日本23位に入るほどの上級者。スポンサーをつけ、他県からチームを招いて大会を行うなど精力的に活動している。メンバーはそれぞれ漁師、製造業、設計士と本業をもつが、「ドラゴン」「マーくん」とお茶目な愛称で呼び合う仲の良さ。誰かが高度な技に成功すると一斉に場内が沸く。「ここは俺たちのホーム。知らない人が来ても、皆仲間みたいなものです」。プロを目指して、9名は今日も滑る。

郷土料理を伝える 海の宿の女将

「また来るね!」そうお客さんに言ってもらうのが何より嬉しいと話すのは「うみの宿さへい」の女将、南清美さん。よく笑いよくしゃべる、太陽のような人だ。農家から漁師に嫁ぎ、宿の女将に。子育てが一段落した今、南越前の郷土料理の継承と発信に取り組んでいる。「自分もまだ勉強中」と年配者に教えを乞い、若い人に伝える。最近では押し寿司「へしこ」をつくる教室を開き、鯖の開き方から教えるなど積極的に活動している。「魚介の豊富なこの地域の郷土料理はとにかく美味しいんです。だからもっと沢山の人に食べてもらいたい」。「さへい」は、波しぶきがかかってしまうのではと思うほど、海のすぐ傍にある。「どんな嫌なことがあっても、海を見ていると忘れられる」と清美さん。若い人からお年寄りまでが集う「サロン」を、古民家につくりたいという夢もある。エサを撒(ま)いては寄ってくる沢山のカモメにはしゃぐ姿が少女のよう。その人なつこさで、今日もにこにことお客さんを迎える。

個性豊かな越前和紙を提案する 和紙ソムリエ

「もともとここは、武家の公文書紙専用の産地だったんです」。そう教えてくれたのは、代々この地で和紙問屋を営む杉原商店の十代目、吉直さん。幕府向けの高級紙を専門につくってきたため、産地名は広く知られていないが、今や「どんな紙でもつくれる」のがここ越前市。色紙、透かし、大紙と特技の異なる400名近い職人が揃う。自ら切り拓いた建築・インテリア向けの紙も注目され、パリのホテルやショーウィンドウを飾る。てきぱきと話すプロデューサータイプだが、本人いわく「自分は御用聞き」。客の要望に応じてさまざまな職人を思い浮かべ、国内外を今日も走る。

紙漉きの原点を守り続ける 人間国宝

和紙の原点ともいえる楮(こうぞ)100%の紙を漉(す)き続けて60年。九代目、岩野市兵衛さんの毎日は、今なお紙漉きとともにある。「市兵衛さんの紙じゃないと」という客は後を絶たないが、本人は「ただ手漉きの基本をやってきただけ」と至って謙虚。2000年に人間国宝の指定を受けるも、里では変わらず親しみを込めて「いちべえさん」と呼ばれる愛嬌あるご老人。紙の原料である楮は、煮る、叩く、チリを取るなど下処理の仕事が多い。その大変さははかり知れないが、淀みなく動くその手つきはあまりに自然で、紙漉きはもはや市兵衛さんの体の一部のよう。その姿は尊い。